
※この記事はプロローグの仕掛けに触れます。重大な真相の詳細には踏み込みませんが、未読の方はご注意ください。
本屋大賞にノミネートされた作品ということで手に取った、知念実希人さんの『硝子の塔の殺人』。単行本は504ページ。最初は「読み切れるかな」と少し身構えましたが、読み始めると先が気になり、夜更かしして一気に読み明かしてしまいました。
本の基本情報
- 著者:知念実希人
- 出版社:実業之日本社
- 単行本発売日:2021年7月30日
- 単行本:504ページ
- 2022年本屋大賞ノミネート(8位)
文庫版は2025年刊・560ページです。この記事で「500ページ超」と書いているのは単行本の情報です。実業之日本社・単行本情報/2022年本屋大賞結果
冒頭で明かされるのは、物語の「終わり」から始まる謎
雪深い森に建つ、ガラスの尖塔のような館。ミステリー好きの大富豪に招かれた人々が集まり、そこで惨劇が起こります。謎を追うのは名探偵・碧月夜と医師・一条遊馬です。
本作の入り口は意表を突いています。プロローグでは、医師の一条が殺人犯として捕らえられた後の状況が示されます。つまり「誰が犯人か」だけを最後まで隠す王道の形とは違い、読者は先に明かされた情報を抱えたまま、そこへ至る経緯と、事件の全体像を追うことになります。「犯人が分かったなら、何を楽しめばいいの?」という疑問が、次のページをめくらせました。
犯人を知っているはずなのに、謎は深まっていく
犯人が示されているからといって、物語の謎が解けるわけではありません。なぜそうなったのか。何が起きたのか。名探偵はどこまで見抜いているのか。語り手の焦りと、読者が感じる違和感が重なって、独特のスリルが生まれます。
序盤は癖の強い名探偵に少し戸惑いましたが、読み進めるうちにその個性が癖になり、だんだん惹かれていきました。登場人物の会話や、館に集まったミステリー好きたちの言動にも遊び心があり、本格ミステリーの約束事を知っている人ほど楽しめる小ネタが散りばめられています。
中盤から加速する展開と、500ページを忘れる読み心地
中盤に大きな事件が起きると、それまで積み上がっていた謎が一気に動き出します。そこからは読むスピードが上がり、分厚さを意識する暇もありませんでした。読み終えたときは、長い物語を駆け抜けた満足感がありました。
出版社の紹介でも、館の主人の毒殺やダイニングの惨劇、十三年前の事件などが示されています。私は細かな真相を知らずに読んだので、気になる方はあらすじを深追いせずに読み始めるのがおすすめです。
ミステリー愛が伝わるオマージュ
作中には、古今のミステリーや名探偵を思わせる名前・言及が登場します。ボクはミステリーに詳しいわけではありませんが、「この名前は知っている」と気づくたびにうれしくなりました。子どもの頃に図書室でシャーロック・ホームズを読んだときのワクワクも思い出しました。
元ネタをすべて知らなくても筋を追えますが、ミステリーをたくさん読んできた人なら、さらに細かな発見がありそうです。
向いている人・合わないかもしれない人
おすすめしたい人
- 普通の犯人当てとは違う構成のミステリーを読みたい人
- 館ものや本格ミステリーの雰囲気が好きな人
- 名作ミステリーへのオマージュや小ネタを楽しみたい人
- 分厚い本を一気読みする達成感を味わいたい人
合わないかもしれない人
- 短く、すぐ読み終わる本を探している人
- 最後まで犯人を伏せる形式の推理小説を期待している人
- 癖の強い登場人物や、本格ミステリー特有の演出が苦手な人
冒頭で示されるのは、少なくとも一条が犯人として捕まるという物語の一つの結末です。誰が何をしたのかを最後まで伏せるタイプの謎解きを期待すると、出だしで戸惑うかもしれません。一方で、「結末が分かっているのに、どうしてそうなるのか」を追う構成が好きな人には大きな魅力になります。
まとめ:本格ミステリーの遊び心と、止まらない勢いを楽しめた
『硝子の塔の殺人』は、館ものの王道を押さえながら、冒頭から読者の予想を揺さぶるミステリーです。500ページを超える単行本に最初は怯みましたが、中盤からの加速感とオマージュの数々に引き込まれ、夜更かしして読み切りました。
犯人を当てることだけでなく、仕掛けや展開そのものを楽しみたい人におすすめしたい一冊です。