
※この記事は作品の設定やテーマに触れます。物語の核心に関わるネタバレは避けています。
凪良ゆうさんの『汝、星のごとく』を読みました。読み終えたとき、星5つでは足りないと思うほど心に残った一冊です。読んでいる間は胸が痛くなる場面が続き、何度も「どうしてこうなってしまうんだろう」と苦しくなりました。それでも最後には、すべてを包み込むような優しさも感じました。読み終えたあとに深いため息が出たことまで、忘れられません。
『汝、星のごとく』の基本情報
- 著者:凪良ゆう
- 出版社:講談社
- 単行本発売日:2022年8月4日
- ページ数:352ページ(単行本)
- 主な受賞:2023年本屋大賞
講談社の公式書誌情報では、単行本は2022年刊、2023年本屋大賞受賞作とされています。文庫版など版によってページ数や発売日は異なります。講談社の書誌情報/2023年本屋大賞の結果
瀬戸内の島で出会った二人の、簡単には割り切れない愛
物語は、瀬戸内の小さな島で暮らす高校生・井上暁海(あきみ)と、母親の恋愛に振り回されて島に転校してきた青埜櫂(かい)が出会うところから始まります。講談社の紹介では、二人は心に孤独や欠落を抱え、惹かれ合いながらもすれ違い、成長していく人物として描かれています。
二人の関係は、ただ「好きだから一緒にいる」と説明できるほど単純ではありません。互いの孤独を埋めたい気持ちがある一方で、その結びつきがいつも二人を幸せにするとは限らない。相手を必要とする切実さと、自分の人生を生きたい思いがぶつかるたび、読んでいるこちらまで落ち着かなくなりました。
読んでいて苦しかったのに、読むのをやめられなかった
この作品の恋愛は、理想的で気持ちのよい展開ばかりではありません。二人の不器用さや、周囲の事情に押し流されていく姿に「それで本当に大丈夫なの?」と思うこともありました。うまくいかないと分かっていても、簡単に離れられない。その苦しさが、物語の中で何度も胸に迫ります。
私が強く引き込まれたのは、誰かの選択を外側から簡単に批判できないところです。家族、島の人間関係、経済的な事情、将来への希望。ひとつの問題だけを取り除けば解決するわけではなく、それぞれの事情が絡み合って、二人の選択を狭めていきます。
恋愛の物語を通して、社会の「普通」を問い直す
暁海と櫂の物語には、恋愛だけでなく、家族のケアを担う若者の負担、性的指向やアウティング、生活保護をめぐる偏見など、現実の社会にもつながる題材が登場します。私は、それらを説明のためだけに置かれたテーマというより、登場人物が自分の人生を選ぼうとするときに立ちはだかる現実として読みました。
特に印象に残ったのは、「本人たちが納得している生き方」を、周囲が勝手な常識で否定してよいのかという問いです。作中の考え方に触れることで、私自身が当たり前だと思い込んでいた基準も揺さぶられました。ここでの受け止め方は私個人の感想ですが、読みながら何度も立ち止まって考えた部分です。
介護や世話を担う若者の問題は、作中だけの特別な出来事ではありません。こども家庭庁は、家族の介護など日常生活上の世話を過度に担う子ども・若者をヤングケアラーとして、支援の対象に位置づけています。こども家庭庁「ヤングケアラーについて」
また、本人の同意なく性的指向などの秘密を第三者に明かすアウティングは、作中の人物関係にも深い傷を残します。誰かの情報を「周囲に知らせてよい」と決めるのは誰なのか。物語を追ううちに、その行為の重さを改めて考えさせられました。
物語の構成も、読み終えた後に振り返りたくなる
冒頭に置かれた「月に一度、夫は恋人に会いに行く」という謎めいた状況が、最初の引きになります。物語を読み進めてから序章や終章を振り返ると、最初には分からなかった言葉の響きや人物の思いが違って見えてきました。出来事を追うだけでなく、読者の理解や感情が後から揺り戻される構成も印象的です。
気になった点:読んでいて心がかなり消耗する
魅力の裏返しでもありますが、つらい状況や苦しい選択が続くため、気軽に読める恋愛小説を探している人には重く感じるかもしれません。登場人物の行動に納得できず、もどかしくなる場面もあります。
ただ、私はその「うまくいかなさ」があるからこそ、二人の人生がきれいごとだけではないものとして伝わってきました。読後に優しさを感じたのも、苦しさを軽く扱わずに描いていたからだと思います。
こんな人におすすめ
- 切なさや苦しさのある恋愛小説を読みたい人
- 恋愛だけでなく、家族や社会の問題も描く物語が好きな人
- 登場人物の選択について、読み終わってから考え続けたい人
- 本屋大賞受賞作を読んでみたい人
反対に、読書で重いテーマに触れたくないときや、恋愛が順調に進む明るい物語を読みたいときは、読むタイミングを選ぶ作品かもしれません。
まとめ:苦しさも優しさも、深いため息と一緒に残った
『汝、星のごとく』は、暁海と櫂の恋愛を通して、自分の人生を生きることの自由さと難しさを描いた作品です。私は読みながら何度も心が痛みましたが、読み終えた後には包み込まれるような優しさも感じました。星5つでは足りないと思うほど、深いため息とともに心に刻まれた一冊です。
読後に「二人はどうすればよかったのか」「自分なら何を選ぶのか」と考えたくなる恋愛小説を探している人に、手に取ってほしい作品です。